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出会いの話

郷隼人歌集

窓からの手紙

第一話

郷隼人の歌 出会いの話
窓からの手紙



郷隼人の歌

     一九九七年六月
 手作りのカードに獄庭(にわ)の草花を押し花として母に贈りぬ

 感謝祭の特別食を食(は)み終えて獄庭(にわ)を歩けば夕風さみし

 報復を恐れての処置かアラブ系の囚徒いきなり髭剃り落としぬ

     一九九六年一二月
 口笛でクリスマス・キャロルを奏ずれば更に寂しき聖夜のプリズン

     一九九七年四月
 老い母が独力で書きし封筒の歪んだ文字に感極まりぬ

     二〇〇三年一一月
 冤罪であったらばともう一度夢より醒めてやり直したい


 独房の小さき水槽(タンク)に芽生うる生グッピーの赤ちゃん復活祭(イースター)の朝に

 静寂を破る猫らの格闘を煽り立てたり目覚めし囚徒

     一九九九年二月
 寒気刺す窓に佇み待ちおれば獄舎の屋根より初日の出ずる


 雨降れば心も病むか冬の雨房に籠れば「鬱」が顔出す

 獄中にいつか死ぬ為生きる我は「籠の鳥」(ケイジド・バード)

     一九九九年一二月 
 獄中に矛盾する話ではあれどもっと時間が時間が欲しい

     一九九九年九月
 世の人の中にはつづれ纏うあり獄衣にアイロン掛けつつ想う


     二〇〇〇年二月
 限りなく殺風景な独房に林檎一個の華やかなる美

     二〇〇〇年二月
 新年の抱負は何かと問わるれば 出所し日本へ帰えりたしと告げん

     一九九八年九月
 獄窓に置きし餌に寄る野の鳥が「籠の鳥」なる我を眺むる

     二〇〇〇年十二月
 母恋し離れ離れの二十年「おふくろさん」を心で唱いぬ

     一九九六年四月入選歌
 銃殺の刑を選びし罪人の 処さるる朝の空は穏やか

     一九九六年七月入選歌
 ロープ無し縄跳びの技編み出して獄庭の隅にエクササイズす


【朝日新聞・郷隼人氏より許諾】転載をお断りいたします。